Words
ある月夜のできごと
2021.04.26
カーテンの向こうから、月明かりが漏れてくる。
暗闇とばかり思っていただけに、ほの明るい夜にとまどった。
わずかに開いたカーテンから月がのぞいている。
あぁ…きょうも。
あの夜もそうだった。
わたしに祈ることを教えたのは、月夜だったのだ。
わたしに苛立ちを教えたのも、月夜だった。
人の波にのまれそうになりながら、月夜の街を後にした。
月はどこまでもどこまでもついてきて、わたしを一人にはしてくれなかった。
わたしは月に吠えた。
苛立ちをぶつけ、咬みついた。
それでも月はなにも言わない。
ただ黙ってわたしの後をついてくる。
わたしは肩をおとし、しかたなく月に向かって手を合わせた。
そうやって祈ることが、わたしにできる、ただひとつの反抗だったのだ。
そしてようやく、わたしは苛立ちから解放された。
no.56